NOVEL 1

【Monopoly /藍日】
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愛しい少年の、闇の中でも白銀に輝く髪を愛しげに梳きながら、男はかつて彼の心を独占していた者の言葉を思い出す。

それは幼馴染だという二人にとってはいつものやり取りで、傍で見る者たちにとっては見慣れた、そして心温まるような会話だった。

『――――でね、シロちゃん』
『シロちゃんて言うな!日・番・谷!隊長だ!!』

少年は抗議するが、だからといって無理矢理改めさせようとは思っていない様子だった。
多感な少年にとってそれは気恥ずかしさが先に立つだけで決して不快なものではなかったのだろう。

だが彼は、彼女の真意を明確に理解していたのだろうか。
いや、彼女自身も無意識の行為だったのかもしれない。
しかし繰り返されるその会話は、藍染にとっては女性の持つ醜く狡猾な一面を見るようで酷く不快なものだった。
―――――当然そのときはそんな素振りは微塵も見せなかったが。


少年を『シロちゃん』と呼ぶ。
だが彼はただの少年ではない。
護廷の数千人の死神の頂点に立つ隊長だ。普通に考えれば他隊の副隊長に許されることではない。
もし日番谷が真面目に否と命じれば、幼馴染とはいえ彼女も諾と従ったろう。
しかし彼はそうしなかった。
それは日番谷にとっての彼女の存在の大きさ――――正直彼にとって護廷より彼女の存在の方が大きかったに違いない――――を証明していたのだが、その結果、『雛森桃は日番谷冬獅郎の特別である』ということを他人にも明確にした。

それはどれほどの優越感か。

そして事実、日番谷の存在によって何かしらの悪意から未然に彼女を守っていた。
少年にはその意図もあったのだろう。彼が死神になった目的のひとつは彼女を守ることであったのだから。

だが彼女が少年に恋心など全く抱いていなかったことを藍染は理解していた。
彼女の関心は常に自分の上にあった。
だからこそ、彼女が彼を「シロちゃん」と呼ぶのは、自分が彼の特別だという無意識の確認行為だと考えていた。

――――――雛森 桃。
思い込みが強く自己完結しがちな少女だった。純粋で一途ともいえたが、人を疑うことを知らず、それ故に自分にも疑いを持つことがなかった。

彼女はよもや自分の慕う上官が己の言動に嫉妬していたとは思いもしなかっただろう。

藍染は独り、暗闇の中で嘲った。

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