NOVEL 1

【嫌悪という名で刻まれた。(前編) /市日】
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「……チッ」
日番谷はこれ以上ないほど眉間に皺を寄せて舌打ちした。
周りは喧騒と人混み。
すでに日は落ちていたが夜店の明かりが周囲を照らし、心躍る囃子の音が聞こえてくる。
今日は夏祭りだった。
よく言えば仕事熱心、悪く言えば朴念仁の日番谷は、今日も仕事は山積みだったし、その幼い見た目に似合わずこうしたことに興をそそられないのもあり参加するつもりはなかった。
だから、こちらは随分前から楽しみにしていた松本の誘いも当然の如く断わっていた。
それが何故こんなところにいるのかといえば、理由は彼のウィークポイントともいうべき存在にある。


今日の午後、突然隊主室を訪問した幼馴染は、開口一番こう言った。
「今日のお祭り、日番谷くんも行くでしょ?」
思わず、「はぁ?」と眉間に皺を寄せて答えてしまった自分を責められはしまい。
行く気のなかった日番谷が当然の如く抗議した。
行きたいなら藍染とでも行け、と。
すると途端に雛森の表情が曇り、そうできない理由を語り出した。
どうやら以前から約束していたのを振られたらしい。
といっても藍染が行けなくなった理由は急な現世出張だったので、仕方ないだろう。
だが楽しみに、浴衣まで新調して心待ちにしていた雛森にとってはかなりショックだったに違いない。
「新調した浴衣も勿体ないし、それに日番谷くんと二人で夏祭りに行くのも久しぶりでいいかなぁって思いついたの。………ダメかなぁ?」
そういって寂しげに笑う雛森に、お前一人で行け、とは日番谷はいえなかった。
誘いを断わった松本には悪いと思ったが元より雛森には甘い自分であったし、正直日番谷ひとりを誘いに来たことに悪い気はしなかった。
「ねぇ日番谷くん、浴衣なんか用意してないでしょ」
了承した日番谷に彼女は小さい男の子用の浴衣を差し出すと言った。
紺地に井絣と刷毛目の模様が白く描かれたそれに日番谷は見覚えがあった。
「…これって」
「憶えてる?お婆ちゃんが昔仕立ててくれたやつ。あたしのに紛れて持ってたみたいで、急に懐かしくなって昨日の夜、着丈を今のシロちゃんに合うように腰揚げし直してみたの」
懐かしくはあっても明らかに子供っぽい柄の浴衣を今更着たいとは思わなかったが、嬉しそうにいう彼女の笑顔と手間を思うと無碍にもできなかった。


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