NOVEL 1

【Substitute /市日】
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市丸はゆっくりと、女の足取りに合わせた歩みで祭りの喧騒から離れた。
賑わう本道からいくつか路地を入っただけで、囃子の音も人の気配も遠くのもののように思われた。
「あの……」
すると、そこまで交わす言葉も少なく、ただ後ろから逸れないようついてきた娘がおずおずと声を掛けてきた。
「なに?」
「…先ほどの方は……」
「ああ。さっきの子は僕の同僚や。あんなちんまくても護廷の隊長さんなんやで」
「あ、…あの男の子の方ですか?」
娘がそう答えるのに市丸は、彼女が聞いたのは日番谷ではなく雛森のことだと気付き内心苦笑した。
表情は相変わらず笑みを張り付かせたままだったが。

女というのは愚かしくも可愛いものだ。
さっき市丸が、彼女との見合いを受ける気はないとハッキリ耳にしている筈なのに、そんなことを聞いてどうするのか。
彼女は四大貴族とまではいかないがそれなりに歴史のある高貴な姫君だった。
流魂街出身の自分とそんな女性との接点など当然ありはしなかったが、総隊長の強引さ加減といい、きっと彼女がどこかで自分を見初め親に話を強請ったのだろう。
―――――自分のなにも、知りはしないのに。

知っていて、そして少しでも賢い人間だったなら自分になど近付きはしないだろう。
あの聡い子供のように。

「もう一人の女の子の方は小さい隊長さんの幼馴染で五番隊の副隊長なんよ。でも僕、実はあの娘のこと嫌いやねん」
言いながら娘に手を延ばす。
「……え?」
顎に手を当て自分の方に顔を向けさせると面白いほど頬を朱に染める。
「―――――安心しはった?」
笑い掛けてやれば娘が期待と興奮と、少しの恐怖で震えるのが伝わってきた。
親になに不自由なく、蝶よ花よと大事に育てられてきたであろう貴族の娘。
きっと男も知らないのだろう。
市丸は娘に覆い被さるように唇を寄せた。

おぼこは趣味ではないが、さっき面白いものを見たせいで少し興奮していた。
何も知らない娘を犯すのもまた一興――――。
そう思って市丸は哂った。


END
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