NOVEL 1

【You must not cry /藍日】
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「泣いているのかい?」

目の前の小さな背中に藍染は問うた。





You must not cry




藍染がその姿を見掛けたのはただの偶然だった。
しかし護廷の隊長であればそこで出会うこと自体は何らおかしなことはない。

そこは護廷十三隊の合同墓地。
物言わぬ黒々とした墓石が連なる、物寂しいところだった。

貴族はともかく流魂街出身の死神はほとんど例外なく葬られる場所。
そして隊長であれば多くの部下を己の判断で、――――過失、もしくは命令で、結果的に送り込む場所でもあった。
藍染も、そしてそれは日番谷も同様だろう。

先日の任務で十番隊の隊士が数人、命を落としたという話を藍染は耳にしていた。

羽織に染め抜かれた十の文字と共に多くの隊士の命をその背に負い、颯爽と風を切って歩く日番谷は立派な護廷の隊長であり、その身に纏う霊圧や硬質な空気が実際の身長より彼を大きく見せていた。
しかしその、いつも背筋を伸ばし真っ直ぐに前を向いている日番谷が、そのとき藍染にはいつになく俯いているように見えた。
墓石の前に佇む姿は、本当に小さい。

もしかしたら墓石に刻まれた名を見下ろしているだけかもしれない。
そう思ったが、日番谷の小さな背がいつになく頼りなく見え、ひどく興味を引かれた。

だからいつもならもっと自然な態度で声を掛けるのに、思わず不躾になった。

「泣いているのかい?」

そう聞きながら、藍染は内心苦笑する。


応えはない。
だが答える代わりに日番谷が後ろを向いた。

その動作はスムーズで、何かを隠す所作も動揺も見受けられない。

―――――ああ。

そうして案の定、振り返った日番谷は泣いてなどいなかった。
いつもの、――――この下らない瀞霊廷で藍染が美しいと認識する数少ないものの一つである――――鋭く冴えた翠色の瞳が迷うことなく己を捉えていた。

自分は何を、期待したのか。


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