1/13ページ目 ぼんやりと、心がどこか現実と乖離した状態で見上げていた月が、ふいに揺れた。 「……藍染?」 己を抱きこんでいた男が自分を抱き上げたのだと認識したときには、すでに藍染は自分を抱えてゆっくりと広い室内を歩み出していた。 そうして目的の場所に辿り着くと、軽い身体をことさら丁寧にそこに下ろす。 「藍染?」 そこはこの部屋に入ったときにも酷く目を引いた、大きな天蓋付きのベッドの上だった。 特注品と思われるそのベッドに優しく横たえさせられ、日番谷は怪訝な表情で男を見上げた。 「…オレ、まだ別に眠くは――――」 そう言い掛けた言葉は、だがそれに藍染が驚いた様子だったので最後まではいえなかった。 「な、なんだよ…」 「いや、君って子は――――」 藍染が笑いながらそういうのに、極まりが悪くて思わず睨みつける。 「だって、お前が。……っ、いつも早く休んだ方がいいって言ってたろ!」 かつて護廷で同僚としてあったとき、昼間の執務中はともかく、就業後――――お互い残業で遅い時間にたまたま顔を合わせたりすると、藍染は決まってそう言った。 体躯は幼いままなのにワーカーホリックな己を心配しての言葉を、だが当時自分は素直になれず子供扱いするな、と反発していた。 今はあのときの気遣いが真実だったのかも分からないが。 「……ホントに、君は。 ―――――可愛いね」 藍染への非難と戸惑いの残る日番谷の顔を見下ろしながら、藍染は微笑んだ。 「さっき、君は僕のお嫁さんになるんだと言ったよね?その意味が分からないのかい?」 まるで本当の幼子に言って聞かすように、藍染は言った。 「――――今夜は、初夜になるんだよ?」 「………は?」 言われた内容が、日番谷には理解できなかった。 いや、理解するのを頭が拒否しただけかもしれない。 だがそんな日番谷に藍染は酷く満足げに口角を吊り上げた。 「そうじゃないかとは思っていたのだけれど、事実として目の当たりにすると男としてはやはり嬉しいものだ。君は、本当に何も知らない清い肢体なんだね」 日番谷の頭を挟みこむように両手を付いて、言いながら覆い被さってくる男の瞳には穏やかな物言いを裏切る剣呑な光が宿っていた。 「――――そうして死ぬまで、君は女はおろか僕以外の男を識らずに生きてゆくんだ……」 髪を上げ、眼鏡を外した藍染も日番谷には別人のように思われたが、今、己を組み敷き目を眇めて見下ろしてくる男もまたそれとは違う男のようだった。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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