1/1ページ目 それは本当に一瞬の邂逅だった。 かつて心密かに愛でていた子供の姿は、立ち上る業火の柱ですぐに遮られ見えなくなった。 だが藍染が彼の変貌を感じ取るにはそれだけで十分だった。 「ええ顔するようになりましたねぇ、日番谷はん」 「おや、市丸も気付いたかい?」 隣りで己の執着を知る部下がいつもの笑みを浮かべて言った。 「やって前は、ホンマに子供やったもの」 「そうだね…」 十番隊隊長を務める日番谷冬獅郎。 彼は子供の外見ながら見識も手腕も大人顔負けで、時には老成すら感じさせる少年だった。 しかしそれでも彼はどうしようもなく子供だった。 ただ一点、誰かを恋う、というところでは。 仕事も人柄も完璧な日番谷の唯一のウィークポイントともいうべき幼い容姿は、だが淡白な彼にとっては煩わしい色恋沙汰を回避するいい免罪符として利用され、今まで誰かを想って昼夜を忘れるという愚かな体験など全く無縁のものにしていた。 世間的に誤解されがちだったが、彼の幼馴染の少女すら恋愛感情とは遠いものだった。 それは二人の極近くにいた藍染こそが誰よりも理解している。 彼は子供だった。 隊長としての大人の表情はしていても、恋に憂える男の表情など、藍染が護廷にいた頃は見たこともなかった。 それが―――――。 「随分と、艶っぽい顔をするようになったね……」 藍染はゆったりと、口角を上げた。 彼にその変化をもたらしたのは自分だ。 藍染にはその確信があった。 ―――――ただ、それは恋愛感情ではなく、憎悪からであろうが。 それでも誰かのことを考え、始終憂える、という点では同じだ。 きっと日番谷は新たな技や戦略を十分に練ってきたことだろう。 ただ藍染を倒すために。 そう思えば、それすらも可愛らしいと思う。 どうせ自分には敵わないのに。 「なんや、楽しそうですねぇ」 「…ああ、楽しいよ。―――とても」 答えれば市丸が、袖で口元を隠すようにしながら「ひゃあ、藍染隊長、怖いわー」とおどけた。 何もかも承知で道化染みた真似をする喰えない部下に苦笑しつつ、藍染は眼前に広がる真紅の炎を見た。 炎の壁は厚く、その向こうで繰り広げられる彼らの戦いの様子は全く見えない。 ただ霊圧だけがその激しさを藍染たちに知らしめる。 自分の部下は決して弱くはない。 だがそれだけ傷つこうと、彼の心は折れないだろう。 藍染を己が手で倒すまでは――――。 そうして再び自分の前に立つだろう少年を、また絶望の淵に沈めてあげよう。 今度は己の執着を、その身体に刻んでもいい。 「――――この無粋なカーテンの幕が上がるのが待ち遠しいよ」 独り言のように呟く藍染を、ただひたすら、業火が赤く照らすのだった。 END ************************ そろそろ食べ頃ですよー!みたいな?(笑)。 逃げろ!日番谷ァー!!! でも20巻の頃と比べたら、今の隊長の色っぽいのなんのって、…ねぇ? [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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