NOVEL 2

傾国 /藍日・R16
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虚夜宮の長い通路をコツリ、コツリ、と硬質な足音をさせながら、城の主が歩いてゆく。
思えばこの城の主――――藍染惣右介の姿を目にすることはとても珍しいことだった。
城内のことは全て把握しているが、どこにいるのかは腹心の元死神達か側近くに仕えるウルキオラくらいしか分からない。

―――――何を考え、何をしているのかも。

その王が霊圧を消すこともなく、遠目ではあるが城に仕える下位の刃面たちにも目の触れるような場所に姿を表わすのは、よもや初めてのことではないだろうか。
通路のあちこちで息を殺し、王への畏怖と陶酔に身を震わせる刃面たちだったが、藍染のその姿に戸惑いを隠せなかった。

藍染の歩みに淀みはない。
しかし、その威風堂々たる彼らの王は何やら白いものを担いでいた。

いや、長身の藍染と比べてみれば、担ぐというほどの大きさもない。
また白いといっても、それは黒い着物を着ていた。
死覇装の上に重ねた羽織と、その頭髪が白いのだ。
白い羽織の背には黒い文字が染め抜かれていたが、刃面たちからはそれもよく見えなかった。

それは小さな死神だった。
死神の子供というべきなのか、それとも子供のような死神というのが正しいのか、それはその面が藍染の広い背に伏せられているので分からない。
細い首には霊圧制御の厳つい枷が嵌められており、気を失っているのか、その死神の小さな手はダラリと垂れ、藍染の歩みに合わせてユラユラ揺れている。


藍染は無言で、ただ少し足早に王の私室に向かっているようだった。
無表情に限りなく近い微笑をたえず湛えている顔も、心なしか険しいように思われ、己が王を目に焼き付けたいのに恐怖で直視できない、――――そんな二律背反と、何より王が何故死神を抱えているのかという戸惑いに、卑小な刃面たちは常より緊張し、背を震わせながらも息を潜めた。



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